スペイン 巡礼の道を歩く 3
(フロミスタ~ラバナル・デル・カミーノ編)




 2018年秋、”スペイン巡礼の道を歩く”第3弾!
8日間で200キロ歩いた旅の記録。
これで、累計600キロを歩き、いよいよ次回、分割巡礼の旅は
目的地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に、たどりつけるのか!?


1日目 マドリードへ(機中)


 10月24日、ぼくが搭乗する中華航空機は19:50に羽田を離陸した。
その後、北京で乗り換え、スペインへ。
ちなみに北京空港で見かけたマドリードの中国語綴りは”馬徳里”。
なんだか、間抜けた感じで微笑ましい。
 20年近く前から、何度もスペインを、レンタカーや列車で旅していた。
そのうち、イベリア半島北部でハンドルを握っている時に、
しばしば見かけた大きなバックパックを背負って歩く人々。
ぼくは彼らを、アクセルひとつ、一瞬で追い越してしまう。
彼らは、いったい何をしているんだろう・・・?
それは、やがて疑問から、憧れに変わっていた。
人々は巡礼者と呼ばれ、そこは800キロに及ぶ、スペイン巡礼の道。
いつか、ぼくもあの道を自分の足で歩くんだろうなあ、
と漠然と思うようになっていた。
そして、それを実行に移した2年前。
14日間、仕事を休んで日本からスペインの飛行機や、
巡礼の道の発着地へのアクセス時間を差し引き、
歩けた距離はおよそ200キロ。
とりあえず、自分はこの日数でどれだけ歩けるだろうと
軽い気持ちで歩きだした1年目だったが、
このペースでいけば、4年かけて全800キロを踏破できる。
 当初、4年連続で、歩こうなんて正直、考えていなかった。
しかし、気づいてみれば、巡礼の旅は3年連続。
やっぱり、やり遂げるしかないという闘志がふつふつと湧いてきた。
1年目、2年目は、まだゴールが遠かったので
スケジューリングは甘かったと思う。
しかし、さすがに今回は来年で目的地である
サンティアゴ・デ・コンポステーラに、本当に辿り着けるかが気になりだした。
来年は無理なく確実にゴールしたいので、できれば、
今年は少しでも距離を稼いでおきたいという欲もでてきた。
ぼくは、中国、ロシア、ヨーロッパへと大陸を横断する飛行機のせまいシートの中で
スペインの地図を何度も開き、旅の行程をイメージしていた。




2日目 マドリードからフロミスタへ


 マドリードに到着したのは25日の朝7時過ぎ。
日本との時差はマイナス8時間。
飛行機には15時間くらい乗っていたことになる。
今年の出発地は去年の終着地であるフロミスタ。
フロミスタは小さな町なので、マドリードからのダイレクトな電車やバスはない。
まずは、目的地近郊の大きな都市(ブルゴス)までバスで行き、
そこでさらにローカルなバスに乗り換える必要がある。
地図は、巡礼の道のあるイベリア半島上部。
マドリードは地図のさらに下で、半島のほぼ中央部にあります。
巡礼の道は、国境沿いのフランスのサン・ジャン・ピエド・ポルから始まり、
ピレネー山脈を越えてすぐスペインに入り、
ナバラ州、リオハ州、カスティーリャ・イ・レオン州、ガリシア州を横断して、
ゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの800キロ。
今年は、州をまたぐことなく、広大なカスティーリャ・イ・レオン州の
果てしない直線道を、歩き続ける旅だった。

 ここ数年、スペインの玄関として利用しているマドリードのバラハス空港は広い。
ブルゴス行のバスにのるために、到着した第1ターミナルから
第4ターミナルへシャトルバスで移動しなくてはならない。
第4ターミナルに着き、アルサ社のバス窓口へ行くとまだ営業時間ではなく、
発着時間を示す電子掲示板にも何も出ていなかった。
バラハス空港のwifiは、あまり強くないが、なんとかiPhoneでインターネット接続し、
ブルゴス行のバスの時刻を調べたら、10:45発というのがあった。
2時間ちょっと待つが、まあ、悪くない乗り換えだ。
ブルゴスには13時過ぎに、たどり着けるだろう。
ターミナルのカフェで、生ハムとチーズのボカディージョ(スペイン風サンドイッチ)、
セルベッサ(ビール)を注文。
スペインに来ると、この組み合わせは定番だ。
赤身の肉に寄り添う、ぬらっとした生ハムの深い白色の脂身は、
口の中でゆっくりと、とろける。
このボカディージョを頬張っていると、スペインにきたんだなあ・・・、としみじみ思う。
空港に降り立った時は、まだ薄暗かったが、気がつけばそこには
雲一つない、秋のスペインの高い青空が広がっていた。

     
 毎年、お世話になるアルサのバス   ブルゴス大聖堂 


 マドリードからブルゴスへは、2時間半で、19ユーロ。
この旅の時期のレートは1ユーロ133円くらいだから、だいたい2.500円ですね。
ブルゴスには、順調に13時過ぎに到着。
アルサ社のように大都市同士をつなぐバス会社の発着時間を調べるのは簡単だ。
アルサ社も専用アプリがあるから、wifiさえ繋がれば、iPhoneで問題ない。
しかし、小さな町や村をつなぐローカルバスはそうはいかない。
ぼくが、これから乗るブルゴスから、小さな田舎町であるフロミスタへのバスの時刻表に
インターネットで、たどり着くなんて、たぶん不可能だろう。
とにかく、ローカルバスは、その乗場に行ってみなくては、わからないのだ。

 ブルゴスのバスターミナルには、何社かバス会社が発着していた。
アルサの窓口で、フロミスタに行くバスを尋ねたら、
アマージャというバス会社だった。
アマージャの窓口は閉まっていた。
それもそのはず、そこにあった時刻表を見てみれば、
フロミスタへは1日1本。17:30というやつのみ。
他の場所への便もないらしく、結局、17時過ぎまで窓口は閉まったままだった。
どんだけ、ローカルなんだ・・・・(笑)。
せっかく、朝早くにマドリードに着いて、ブルゴスへの接続も無駄はなかった。
この日は、ブルゴスに1泊して、翌朝、フロミスタに行って
すぐに歩き始めるという一考もあったが。
明日から巡礼の道を再会するには、今日のこの17:30に乗るしかない。
4時間近く、待つはめになったが、ここは頭を切替えて、
バルに寄って腹ごしらえ、そして、ブルゴス観光でもしよう。

 バスのチケットを7.45ユーロで買って、フロミスタ行きのバスに乗り込む。
バスは、定刻通りブルゴスを後にした。
太陽の位置はまだ高い。
真っすぐの道にはほとんど対向車がなく、近代の風車が遠くに連なる。
ドン・キホーテが立ち向かった、昔ながらの風車は見えない。
やがて、黄金色の牧草地と、乳白色の大地が広がり、
19時過ぎに、去年の旅の終着地・フロミスタに着いた。
去年はここで、巡礼最後の夜を過ごし、
その翌朝早くマドリード行きのバスに乗ったのだ。
ここが今年の巡礼のスタートポイント!
去年、お世話になった公営のアルベルゲに直行すると、
ベットは空いていた。
パスポートを見せ、クレデンシャル(巡礼手帳)にスタンプを押してもらい、
8ユーロを支払う。
クレデンシャルには、基本
宿泊したアルベルゲでスタンプが
押されることになっています。
しかし、スタンプはアルベルゲ以外に巡礼の途中の教会やバルにもあり、
立ち寄って印象深い場所であったなら、頼んで押してもらうことができる。
それらは、すべて地域性のあるオリジナルデザインなので、
クレデンシャルを開けば、それまでの旅を追想することができる。
ぼくの1冊目のクレデンシャルには、スタンプを押すスペースがもう、なくなりつつあった。
アルベルゲの管理人のおばさんに、そのことを伝えると、
新しいクレデンシャルを3ユーロで譲ってくれた。
 自分の部屋へ案内してもらい、ベットを確保。
そして、まずはベットに寝袋を置き、シャワーを浴びる。
これが、どのアルベルゲに行っても、お決まりのルーティーンとなる。
フロミスタは、去年と何も変わらず、時が止まってしまったような小さな町。
レストランも、ほとんどないので、アルベルゲの裏にある
小さなコンビニのようなお店で、ムール貝、たこ、アスパラの缶詰、
リオハの赤ワインを買った。
そして、それらをアルベルゲの暖炉のあるサロンで夕食とする。
あまり、他の巡礼者は泊まっておらず、夕食中は
スペイン人の熟年カップルが、1組、ソファでくつろいでいるだけだった。
日本では、ほとんどスペイン語を話す機会がないのけれど
せっかくスペインに来たのだ、積極的に使っていこう。

 
 新しいクレデンシャル




3日目 カリオン・デ・ロス・コンデスへ
 
 この旅に出ると、だいたい日本にいる時より早い時間に寝ることになる。
1年ぶりのアルベルゲでの初日、朝3時くらいに目がさえてしまったが、
さすがに出発するには早すぎる・・・。
6時過ぎまで、寝袋の中で2段ベットの天井をぼんやり眺めて過ごす。
いよいよ、今日から本当の意味での分割巡礼再開だ。
まだ夜の明けない7時に、フロミスタを出発。
1時間ほど歩いて、青空が見えてきたころ
ポブラシオン・デ・カンポスという町に辿り着いたので、
バルに立ち寄り、目玉焼き、生ハム、パン
そしてカフェ・コン・レーチェの朝食をとる。
カフェ・コン・レーチェは濃いめのコーヒーに熱々のミルクを
たっぷり注ぐもので、スペイン人はこれが大好き。
ぼくもスペインに来ると、朝は必ずこれを飲むようになった。
 スペインの町はどこも、猫がたくさんいる。
猫たちは、とても人懐こく、時には親切ですらある。
朝食をすませ、バルを出ると、
巡礼の道の案内するように、1匹の猫が、
町中から町を出てからも、しばらく、ぼくと一緒に歩いてくれた。
なんと、道が分岐するところは、きちんと迷わず正しい方を
先導してくれるからすごい。
このような旅は、多くの人に助けられる場面も多いが、
猫にも感謝!

 
 

 11:30、ビリャルカサール・デ・シルガという町でバルに立ち寄り昼食。
豚のグリル、サラダ、フライドポテトのセットメニューとビールを頼む。
昼食後、歩きだしカリオン・デ・ロス・コンデスという町に到着。
ここまで朝から20キロ歩いたことになる。
行程表によれば、この先は17キロもアルベルゲがない。
もう少し、歩けると思ったが初日だし、無理をせず
この町に泊まることにした。
モナステリオ・サンタ・クララというアルベルゲに7ユーロで
午後2時過ぎ、チェックイン。
古いレンガつくりの建物で、石畳の広い中庭があった。
案内された部屋は小さく2段ベットではない普通のベットが、
4つあるだけで、ぼくの他にはフランス人男性が一人いたのみ。
他にもあまり、宿泊者はいないようだ。
曇り空で、少し肌寒かったが、シャワーを浴びてから
中庭でギターをポロポロやる。
中庭だから、もちろん屋根はないが、壁に反響して音が増幅するので、
弾いていてなかなか気持ちはいい。
誰も聴いていなくてもいい。
自分のために、ルネサンス音楽やバッハを静かに弾く。
ほとんど、人はいなかったが、やはり通りがかりの人がしばらく足をとめ、
「その楽器はおもしろい形をしてるけど、なんて楽器?」とか、
「今の曲は何?」
とか、話しかけてくる。
旅での、こんな音楽談義は楽しい。


4日目 レディゴスへ


 「スペイン巡礼の道」を歩く旅も今年で3回目。
それ以前からも、すでにスペインには軽く10回以上は来ているだろう。
そんな慣れからか、今回はちょっと大事なものを持っていくのを忘れてしまった。
iPhoneやiPadを充電するときの、コンセントの変換プラグ。
iPhoneやiPadは世界のスタンダードなので、電圧の異なる国での
充電でも他の電化製品のように変圧器は必要ありません。
でも、コンセントの形状は国によって異なるので、
変換プラグだけは持っていかなくてはならない。
「スペインには何度も行ってるし、変圧器なんか、いらないもんね・・・」
なんて思い込みが、変換プラグの存在をも忘れさせたようだ。
立ち寄るのは小さい町ばかりだから、この変換プラグを売っているような
電気屋さんがそもそも、なかったりする。
仕方がないので、今回訪れた1番の大きな都市レオンでこれを購入するまで、
バルやアルベルゲでプラグを借り、iPhoneやiPadを充電させてもらっていた。
これから、スペインに行く方は、変換プラグをお忘れなく。

 
スペインの Cタイプ変換プラグ


 7時に起きて、8時にアルベルゲを後にする。
この日はちょっと、つらかった。
天気が悪いとか、登坂がきついとかではない。
平坦な道だが、とにかく休憩するところが、出発してから
17キロというもの、まったく存在しないのだ。
町やバルは、もちろんのこと、果てしない直線の砂利道の脇に
ひとつのベンチだってない。
今までも、休憩場所がなかなか現れない区間を、何度も歩いてきたが、
それでもだいたい10キロくらい歩けば、なにかしらあるものだ。
17キロ、時間にして3時間半くらい、重たいバックパックを背負って
歩き続けるのは、さすが疲れた。
やっと、バルに辿り着いたのは、昼の12時過ぎ。
カルサディラ・デ・ラ・クエサという町で
トルティージャ、ソーセージ、ラザニアの昼食をとる。

 
 

 朝から23キロ歩いて、レディゴスに15:30到着。
ラ・モレーナというアルベルゲにチェックイン。
案内された2階の部屋は大きく、2段ベットが20台くらいあり、
そこそこ、巡礼者でベットは埋まっていた。
ベットに寝袋を置き、シャワーを浴びる。
巡礼の旅に出るとほぼ毎日、赤ワインを飲む(日本にいてもそうか)。
小さい町ばかり宿泊するので、その町にスーパーやコンビニがないのには
それほど驚かなくなっていた。
ここもそんな町で商店とよべるものはない。
幸い、アルベルゲにはバルが併設されていたので、
ワインにありつけないということはない。
しかし、バルでグラスワインを、2、3杯頼むなら、やはりスーパーやコンビニで
ワインをボトルごと買ってきた方が、経済的。
そんな時、こんな裏技がある。
アルベルゲのオーナーに申し訳なさそうに
「すいません、ワインをボトルで売ってくれませんか・・・?」と尋ねてみるのだ。
そうすると、たいてい快く、格安(4、5ユーロ)の
美味しいハウスワインのボトルを店の奥の方から持ってきてくれる。
うまくいけば、おつまみに、タダのオリーブまでついてくる。
ここのアルベルゲでも、5ユーロでゲットすることができた。
今日も赤ワインを、サロンでちびちびやりながら、ギターをポロポロ弾く。
誰のために弾くというわけではないが、ぱらぱら人が集まってきて、
拍手してくれたり、あたたかい声をかけてくれる。

 
 

5日目 ベルシアノス・デル・カミーノへ

 去年の巡礼の旅、そして今年の巡礼の旅、
偶然にも出発日が同じ10月24日だった。
一昨年の第1回目の旅はこれより、少し遅く10月27日だったが、
今年が一番、寒かった。
それでも、雨に降られた(雪まじり)のは1日くらいで、
今年も天候には恵まれた旅だったと思う。
 スペイン上部を東から西への旅、
緯度はほとんど変わらないのに、農作物は大いに異なる。
1年目、2年目で見かけた広大な葡萄畑は今回、皆無だったのが
とても残念。
オリーブ畑もあまり見かけなくなっていた。
かわりに、収穫後、または収穫されず放置されている
ひまわりや、トウモロコシたちの畑が広がっていた。

 
 太陽に顔を向けられなくなったひまわりたち


 1年目のリオハ地方(スペイン有数の葡萄産地)、
歩きながらつまみ食いした
テンプラニーリョの葡萄の美味しさは今でも、忘れられない。
こんな素晴らしい原料からつくられたワインに間違いはない。
もともと、スペイン語圏でつくられたワインが大好きでしたが、
リオハを自分の足で歩き、そして彼の地で飲んだワインの体験は、
強烈にぼくの心に刻みつけられた。
地元の小さな商店で買った、2、3ユーロのリオハワインでも妙に感動できる。
この旅は、悲しいかな、ゴールに近づくにしたがって、リオハから離れていく。
そうすると、リオハで2、3ユーロで買えていたリオハ産ワインが、
今回歩いた地方では9、10ユーロぐらいになってしまう。
そうか・・・、いくら同じ国内といえ、輸送コストが値段に反映されてくるのね。
日本でも、リオハのワインは購入できます。
ぼくは、どこにいてもそのリオハワインを一口含み、
目を閉じれば、ばーっとあの果てしないスペインの葡萄畑に
瞬間移動できる自信がある。

 7時過ぎに、出発し1時間ほど歩いた町、モラティノスのバルで朝食。
目玉焼き、豚肉、ポテトのセットメニューを6ユーロ、
それとカフェ・コン・レーチェ。
雲はあるが、おおむね青空のよい天気。
持ってくるのを忘れてしまったiPhone、iPadの充電のための変換プラグ。
いちいち、バルやアルベルゲで変換プラグを借りて充電するのは
煩わしいものだ。
お客さんがたくさんいて、忙しそうな時に声をかけるのも気がひける。
今日は順調に歩ければ、昼頃にサアグンという街に到着する。
列車の駅もあるから、比較的、ここらへんでは大きな街に違いない。
電気屋さんもあるだろうから、やっと変換プラグを購入できる。
そしてやっと、見つけたサアグンの電気屋さん!
ところが、お店は閉まっていた。今日は日曜日・・・。
日曜に、商店がお休みするのは、スペインでは珍しくないのだった。
また、しばらく変換プラグはお預け。
サアグンのバルで数種のタパスを肴にセルベッサ(ビール)を飲む。
さあ、めげずに午後も歩こう。
27キロ歩いてベルシアノス・デル・カミーノに着いた。
ベルシアノスというレストランの併設されたきれいな
私営アルベルゲに15:30チェックイン。
15ユーロとちょっと高め。
歩き始めて、3日目にもなってくると、途中のバルで何度も顔をあわせたり、
前のアルベルゲで一緒だったりと、顔馴染みも増えてきた。
シャワーを浴び、レストランで赤ワインをちびちびやりながら、
明日からの行程のチェックなどしていたら、
ギター演奏のお呼びがかかった。
夕食後にミニコンサートをする約束をした。
ソロを数曲、そしてみんなで、レナード・コーエンの「ハレルヤ」を合唱。
大いに盛り上がって、ワインをたくさんおごられた。

     
     


6日目 レリエゴスへ


 かたいアルベルゲもあれば、やわらかいアルベルゲもある。
かたいアルベルゲとは、だいたい公営の古くからあるもので、
就寝時間と起床時間が、厳格に守られている。
巡礼者同士の楽しい語らいも夜10時ともなれば、管理人は事務的に
みんなを寝室に促すし、朝は自動的に電灯がつき、
さあ、起きろ、と声をかけてくる。
昨夜、泊まったアルベルゲは私営。
かたいアルベルゲの対極にあった・・・。
夜は賑やかで、楽しい宴会となり、申し分なかった。
問題は朝だ。
このアルベルゲはレストランと宿泊する棟がつながっていて、
外に出るときは、必ずレストランの中を通過しなくてはならない。
多くの巡礼者は7時から8時くらいの間に出発する。
ぼくも、荷物を整理していざ、出発と思ったら、
レストランの扉に鍵がかかっていて、出られない。
レストランの上に住んでいる若い女性管理人の部屋をいくら
ノックしても応答はない。
巡礼者10数人が、出発時間になっても、
アルベルゲに閉じ込められたままとなってしまった。
そのうち、管理人がくるまでは待っていられないと、
アルベルゲの1階の高い窓から、飛び降りて出発する人たちもでてきた。
ぼくも、そうしようかと思ったが、
運悪く昨夜から、変換プラグを借りてレストラン内で、iPhoneを充電したままだった。
とにかく、レストランが開かなければ、出発することができない・・・。

 ことの顛末は、あっけなく、そしてアホらしい。
なんのことはない、そのでっぷりと太った女性管理人は
ただ爆睡していただけで、あれだけ巡礼者にチャイムをならされ、
ドアを激しく、しつこくノックされてもいたにも関わらず、
ただただ目覚めず、寝続けていただけ。
彼女が、悪びれることなく、のっそり起きてきたのは9時半をまわっていた・・・。
ぼくが、iPhoneを回収しやっと、出発できたのは結局、10時ちかく。
今年は、来年のゴールにむけて、少しでも距離をかせいでおきたいのに、
こんな想定外もある。
イライラもしたが、ここはスペインだ。
諦観と愛おしさが、ないまぜになった心境。
やわらかいアルベルゲとはここのように
いろんな意味でルーズなアルベルゲのことをいう。
まあ、小さなトラブルもいずれ旅のよい想い出となるだろう・・・。

 雲はあるが、よい天気。
8キロ歩いて、エル・ブルゴ・ラネロという町で昼食。
昨夜のアルベルゲのおかげで出発が遅くなってしまったので、
バルでの休憩を短めにする。
車道と並行に伸びる砂利の巡礼の道には、
道しるべのように、プラタナスの木が続く。
今日は21キロ歩いて、なんとか目的地のレリエゴスに17時に到着。
とても小さく、静かな町だ。
数件あるアルベルゲも、いくつかは閉まっていた。
冬の間は閉鎖されるアルベルゲも少なくなく、
それらは10月末まで営業することが多い。
ムニシパル(公営)のアルベルゲにチェックイン。
夕食はアルベルゲの1階の小さなレストランで10ユーロの
巡礼者メニューを頼む。

     
 プラタナスに導かれ    バルの昼下がり


7日目 レオンへ

 フランスのサン・ジャン・ピエド・ポルを出発地とする巡礼者は
この街の巡礼事務所でクレデンシャル(巡礼手帳)を購入し、
スタッフから、巡礼の行程や注意点などを説明してもらう。
その時に各宿場町のアルベルゲの一覧表、
ゴールまでの距離・高低差の書かれた一覧表を、それぞれ受け取る。
この2つは、旅にとってとても大切。
行った先の町のアルベルゲを事前に調べておく必要があるし、
登り坂があったなら、負荷が高くなるわけだから、単純な距離計算で歩くわけにもいかない。
どちらの一覧表も何度も何度も、開いたり、たたんでいるうちにだいぶ
くたびれてきた。
そんな時、今回の旅のはじめに、ブルゴスの土産屋で見つけ、
購入したミシュラン社の巡礼者用地図。
これは、1日の旅程の目安や、高低図の他に俯瞰図ものっているので、
わかりやすい。
(巡礼事務所でもらうものは、カラーではなく俯瞰図ものっていない)
ミシュランは車用の地図ばかりかと思っていたが、徒歩用の地図も出版していたのだ。
今回、たまたま、見つけて手に入れましたが、
ほとんどの巡礼者は巡礼事務所でもらった地図しか持っていないので、
ぼくが、バルやアルベルゲでこの地図を見ていると、
「ちょっと、それ見せて」と、よく声をかけられた。
巡礼する方には、おすすめの地図です。

     
 ミシュランの巡礼者用地図    


 今日は、今回の巡礼の旅の中で、
最も大きな都市であるレオンが目的地。
北はカンタブリア海に面した港町ヒホンから、
南はアンダルシアのセビーリャまで、全長800キロ以上に及ぶ
古代ローマ時代に築かれた交易路を”銀の道”という。
南北に走る”銀の道”と、東西に走る”巡礼の道”が、
交差する位置にあるのが、このレオン。
交通の要衝として栄えた古都だ。

レオンまでは、26キロ。
小雨が降っているので、バックパックとギターケースにレインカバーを装着し、
7時過ぎに出発する。
6キロほど歩き、マンシーリャ・デ・ラス・ムラスという町で
モルシージャ(スペインのソーセージ)、目玉焼き、ポテト、サラダ、
カフェ・コン・レーチェの朝食をとる。
毎日だとつらいが、たまの雨も、悪くはない。
落葉が折り重なった道に雨が降り注ぎ、それを踏みしめて歩く時、
深い秋の芳香が立ちのぼる。
遠くには、すでに雪化粧された山々の峰が連なって見える。
カスティーリャ・イ・レオン州の北部は標高約1000メートルにも位置し、
冬の寒さは厳しい。
11時半にビリャレンテという町のバルで8.5ユーロの巡礼者メニューの昼食をとる。
豚肉グリルと野菜がたっぷりでお腹いっぱい。
午後になり、徐々に雨雲が切れてきたが、
レオン手前で、ちょっとした峠越えが待っていた
雨はやんでいたが、急な下り坂が泥道になっていて歩きにくい。

         
 雨の道もあれば・・・   イバラの道もあり・・・    泥の道もあるのだ・・・ 


 16時にレオンに到着し、中国系の雑貨店で、やっとiPhone充電用の変換プラグを購入。
街の入口のバルで少し休憩して、中心地の大聖堂のすぐ近くにある公営アルベルゲに
17時過ぎにチェックイン。
夕食は近くのレストランで巡礼者メニューをとる。


8日目 ヴィリャダンゴス・デル・パラモへ

 旅も終盤にはいってきた。
残された日数では、残念ながら、ひとつの街をゆっくり観光しているわけにもいかない。
7時、まだ夜の明ける前、、レオンの大聖堂に後ろ髪を引かれつつ、歩き出す。
街を出て、小高い丘を通過する時に、多くの洞窟の家があった。
かつて、スペイン南部のグラナダで見かけたヒターナ(ジプシー)の家。
今では、誰も住んでいないようだったが、ここにも流浪の民の町があったのだろう。

     
 レオンの大聖堂    洞窟の家


つづく・・・